~オリックス・近藤、想いを白球に託し の巻~
泰然と
高く上がった白球が神戸の夜空に舞い、放物線を描いてライトポール際に飛んでいく。
黄色のライトポールの内を巻いたかそれとも外か。
長いビデオ判定の結果、判定覆り本塁打に。
ベンチ、ファンと球場全体が騒然とするなか、
マウンドにいたのは、打たれた近藤大亮。
怒気を発するでも首を傾げ疑問を呈するでもなく、泰然と。
それは演技かもしれませんが、泰然と結果を飲み込んだようにみえました。
黙して語らず
結果的には、それは誤審。
近藤には、
本来つくはずのない1敗が記録され、
本来つくはずのない自責点2が記録され。
しかし、近藤はその件に関して、
当事者で最大の被害者であるにもかかわらず、
黙して語らず。
文句、不平、愚痴、批判。
全てを言える立場にありながら。
「あの打球を打たれてしまったのは僕だし、何を言っても言い訳になる。格好悪いじゃないですか」
「僕は絶対に何も言わないでおこうと。誤審かもしれないけど、あの打球を打たれてしまったのは僕だし、何を言っても言い訳になる。格好悪いじゃないですか」(スポーツ報知)
誤審発覚前に書きあげた当日の記事(~オリックス、またしても山岡、またしても近藤)でも、
私は同じようなことを書いています。
ツーアウトをとんとんと取るも、
九番打者に3-0からヒット。
ストレート一本勝負の果てに大きいのを打たれる。
これまで幾度も繰り返しみせられた、今季の近藤のピッチング。
それが集約されたようなこの日のピッチング。
であるからこそ、
一場面を捉えて不満を述べるのでなく、
自身のこれまでのピッチングを俯瞰して捉え、ぐっと嚥下する。
11試合連続無失点
その一件以降、近藤大亮は変わりました。
あれだけ不安定な投球を続けていたにもかかわらず、
11試合連続無失点。
いまも継続中。
勝ち負け問わず、どんな場面でも黙々と腕を振り続けます。
その明朗な性格ゆえファンも多い近藤ですが、
あの中村の一打以降、笑顔が少なくなったような印象を受けます。
気落ちなどではなく、より一球に賭ける集中力が増した末のものかと思っています。
気迫と意地
誤審以降も、
ストレート中心のピッチングスタイルは基本変わらずも、変化球も駆使して打者を打ち取る場面が増えました。
それは、キャンプ中から自身が目指すもできなかったこと。
変化の時期を振り返れば、
やはり、あの誤審騒動がいまの好成績を生んだといえるでしょう。
150を超えるスピードはないものの、それでもバットはボールの下を通り過ぎる。
キレが信条とはいえ、それだけでは片付けられない何かがあります。
それは近藤の持ち味でもある気迫であり、
またあの夜の屈辱が生んだ意地でもあり。
胸を張り前を向き
誤審を嘆き、
あるいは唾を吐く人間がいまだいるなか、
その最大の被害者が胸を張り前を向き、一心不乱に腕を振る。
到底納得できない負けとはいえ、一敗は一敗。
それ以上でも以下でもなく。
あの夜の悲劇が、近藤を強くしたのであれば、
その近藤が、一ついや二つ以上の白星をチームにもたらしてくれのであれば、
収穫の方が大きく。
「何を言っても言い訳になる。格好悪いじゃないですか」と語った近藤のいまの姿は、
格好いい。