~オリックス・高山郁夫「内角を攻めさせる」と、配球論 の巻~
内角攻め
デイリースポーツの記事より。
オリックスの高山郁夫新投手コーチ(55)が2日、投手陣に内角攻め&緩急のススメを説いた。
今季のチーム防御率はリーグ5位の3・83と低迷。その原因の一つに制球力のなさがあった。四球数こそ433でリーグ3位だったが、勝負所で痛打を浴びるシーンが多く見られた。高山コーチは「外角中心の攻めになっていた。打者に内角はないと判断されたために踏み込まれて打たれた」と話す。外角低めギリギリを狙うあまりカウントを悪くして痛打される悪循環に陥っていたと分析した。
はい、知っていました。
その通りですし、もう長いことその弊害に苦しんでいます。
記事では「制球力のなさ」が原因となっていますが、
サインを出しているのは捕手で、
外角に投げろと要求しているのも捕手。
外角低め、同じところにまるで地蔵のように泰然と構え続けるオリックスのキャッチャー陣。
いくらファンや解説者から批判されても、それはもう意固地なほどに。
岡田彰布と日高、鈴木
オリックス捕手陣(投手陣)の外角攻めについて、
過去の資料を紐解いてみると、
岡田監督就任初年度の2010年の春季キャンプ時にはすでに、岡田自身がキャッチャー陣の外角中心の配球について、
「打者に踏み込まれている」と苦言を呈しています(野球小僧)。
その当時の正捕手は、日高剛。
しかしそう言っていた岡田が、シーズンが始まると、
救援陣をリードする捕手に対して、アウトロー一本鎗の配球を指示していたのも事実で、
それがまた通用もしていました。
当時のオリックス救援陣は、平野、岸田の全盛期。
150キロ超のキレのあるストレートを外角低めに投げておけさえすれば間違いはなく、打者も当てるのが精いっぱい。
それくらい両投手のストレートは凄かった。
そして、その時の正捕手は、鈴木郁洋。
頑として
こういう記事があります。
全50球中43球。
オリックス・鈴木郁洋はミットを頑としてそこから動かすことはなかった。
彼が要求したのは外角低目へのストレート。
マウンドにいた平野佳寿はめいっぱい、そのミットめがけて投げ込んだ。
10月4日から西武ドームで行われた埼玉西武対オリックス3連戦は両チームにとってCS進出生き残りをかけた最後の天王山と呼べる試合となった。リードするオリックス、それを追いかける西武。ペナントレースと同様の展開になった初戦は、さながら両チーム、両監督の我慢比べという様相になった。オリックス・岡田彰布監督のいう“頑固力”が勝つのか、埼玉西武・渡辺久信監督のいう“寛容力”が勝つのかという、実に興味深い戦いとなったのだ。
初戦の終盤、この3連戦の鍵を握る場面が訪れた。
それが冒頭の部分だ。
5対1となってオリックスが4点リードで迎えた7回裏1死一、三塁の場面を迎えた岡田監督は今季66試合目の登板となる平野佳寿をマウンドへ送った。
CS争いの行方を左右する重要な場面、岡田監督はなんの迷いもなく平野にそれを託したのだ。
平野への信頼はキャッチャー鈴木郁洋のリードからも見てとれた。
初球、栗山巧に投じたボールは鈴木の構えた外角低めとは逆球の内角高めへと抜けていったが、その後も鈴木は外角低めのストレートばかりを平野に要求した。相手のデータは関係なかった。
平野に対するこの絶対的な信頼こそが今季のオリックスを支えた大きな柱だった。初球、平野の球速は147キロを表示した。栗山はこれを強振するもボールは鈴木のミットの中へ吸い込まれる。
「気持ちが乗っている」
鈴木はこのボールを受けてそう感じたという。
その後も鈴木はこの外角低めのストレートにこだわり全50球中43球、それを要求した。まるで岡田が提唱する“頑固力”が乗り移ったかのような彼の配球。
「自分はピッチャーの一番良いボールを要求したに過ぎないです。外角低めはバッターが一番打ちづらいボールでもありますし、それはキャンプから徹底してやってきたことですから……」
さも当然であるかのように鈴木は語った。それに応え、渾身のボールを投げ続けた平野。
この試合、オリックスは西武の追撃を振り切ることに成功した。(2011年10月11日 Number Web 永田遼太郎/球道雑記)
こういう成功体験を経て鈴木郁洋の配球論は形成され、
その鈴木が現在のオリックスバファローズの一軍バッテリーコーチを務める。
高山の言う「外角中心の攻め」。
さもありなん。
伊藤光
時は過ぎ、2014年10月2日。
ところは福岡ヤフオクドーム。
10回裏、ピッチャー比嘉、バッター松田。
外のボールに狙いをつけ、大きく踏み込んでバットを振る松田。
一球でも比嘉得意のシュートを内角に投げ込めばゲッツーがとれると確信しながら観ていましたが、
繰り返された外へのスライダーを予想通りに弾き返されてゲームセット。
ホームベース上で泣き崩れたオリックスの正捕手は、伊藤光。
翌2015年、
期待を大きく裏切っての5位に終わったオリックス。
戦犯とされたのは、外角中心の配球を続けた伊藤。
レギュラーからも滑り落ちました。
若月健矢
代わってチームの正捕手となったのは、若月健矢。
若者特有の、怖いもの知らずの大胆さで目を見張る配球をしていましたが、
2017年の開幕3連戦、一球の恐ろしさを身に染みて知ってからは、無難なリードに変貌。
つまりは、外角中心のリード。
チームの不振の原因を一手に背負い、伊藤同様戦犯扱いされました。
こうやって約10年の歴史を振り返っていくと、
いつの時代も、捕手が変わろうが、
捕手の配球、すなわち外角中心のリードが槍玉に上がり続けています。
若月の代わりに伊藤を使えと声高に叫んでいた人が、
2015年当時に伊藤を批判していなかったかというとそんなことはないはず。
もちろんその挫折を糧に、いまの伊藤は成長もしていますが。
結果論
結局、捕手のリードが叩かれなかったのは、2014年くらい。
すなわち好成績を残した年だけ。
ロッテの正捕手を長く務め、WBC日本代表にも選ばれた里崎智也はこう言っています。
──(リードは)すべては結果論でしかないと。
里崎 そうですね。たとえばの話、リーグ最下位で防御率も12球団ワーストのチームのキャッチャーを、「リードがいい」って褒める人、見たことあります?
どうしたって対外的な評価でモノを言うのは、強いチームで、いいピッチャーと組めるかどうか。もし、(ロッテ捕手の)田村が各チームのエース級と組んで、そこそこの結果を残したら、「あいつはリードうまくなったねー」ってすぐ言われますよ(笑)。
それぐらい定義の曖昧なものなんです。 (ベースボールチャンネル)
一理あります。
オリックスの歴史を当てはめると、まさしくそうです。
槍玉に上がらないように
正直、他球団の捕手のリードに注目していないので強くは言えませんが、
弱いチームの捕手も、(例えば今季のロッテやヤクルトなど)同じように叩かれ続けているのではないでしょうか。
ただそれでも、それにしても、
オリックス捕手陣の外角中心の攻めが目に付くのは事実で、
そしてそれがまたよく打たれていたのも事実。
上述のような経験を経たバッテリーコーチの鈴木が、その凝り固まった信念を大きく変えられるとは思いませんが、
その外角中心のリード(もちろん鈴木だけのせいではなく、オリックス長年の問題ではあります)を声を大にして否定するコーチが味方に加わったことは、チームにとって大きなメリット。
もちろん捕手だけのせいにせず、
内外にしっかり投げ分けられる投手を育ててもらうのが、高山の第一の責務です。
里崎の言うように定義のあいまいな配球論。
統計学の進んだ米国でも、セイバー上、配球に関する評価値がないこともそのことを裏付けています。
しかし、ゆえにそこに甘んじ諦める必要はありません。
やはり、素人がみても明らかな、外角中心のリードは改めていかないと。
ホームプレートを広く使っていくことが損になることは決してないのだから。
来シーズン終了後、
捕手の配球論が槍玉に上がらないような活躍を期待しています
(私もよく外角中心のリードを批判していますので)。